《事例研究》退職後に自殺した夫の遺族厚生年金を請求する
事例
Aさんは昭和46年9月生まれの家庭の主婦です。昭和46年4月5日生まれの夫Bさんはサラリーマン。
中学生の子供が一人います。
平成19年1月ごろから夫Bさんは、月100時間もの残業をするほどの激務が続き、平成19年7月12日から病院の
精神科に通うようになりました。しかし激務に人間関係のストレスも加わって抑うつ気分が強まり、平成20年10月、
会社を退職。その後、平成20年12月に再就職しましたが、新しい職場でも本人に対するいじめが発生し、抑うつ気分は
治りませんでした。平成22年5月に退職。さらに23年1月から1年契約の社員として就職し、平成24年1月退職。
さらに次の職場を探す活動を始めましたが、なかなかうまくいきません。平成24年3月5日にBさんは自殺してしまいました。
遺族厚生年金は請求できるか
Aさんは遺族請求年金を請求できるでしょうか。
遺族厚生年金を請求するためには、次のような要件のいずれかを満たさなければなりません。
1.厚生年金の被保険者である間に死亡したとき。(保険料納付要件も満たすことが必
要)
2.厚生年金の被保険者である間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から5
年以内に死亡したとき。(保険料納付要件も満たすことが必要)
3.障害の程度が1級・2級の障害厚生年金を受けている方が死亡したとき。
4.老齢厚生年金の受給権者又は老齢厚生年金を受けるために必要な加入期間の条
件を満たしている方が死亡したとき。
Bさんは、会社を辞めた後に死亡していますので上記1.には該当しません。障害年金は
受給していませんので2.にも該当しません。大学を卒業して会社に入ったのは平生6年
4月ですので、死亡した時点では老齢厚生年金を受給するために必要な加入期間(25
年)を満たしてはおりません。ですから4.の要件も満たしておりません。
Bさんの自殺の原因は、在職中の激務から生じたうつ病にあると考えられます。うつ病の
初診日は平成19年7月12日です。平成24年3月5日にBさんは死亡しており、初診日から5年以内の死亡に該当します。
このように考えると、2.の要件は満たされることになり、Aさんは遺族厚生年金を請求できると考えられます。
ただし、Bさんの自殺は厚生年金の被保険者である間に初診日があるうつ病が原因であるということを証明しなければなりません。
それにはどうしたらいいのでしょうか。
主治医の『受診状況等証明書』で証明
Bさんの主治医に相談したところ、その主治医が、初診日以来自殺に至るまでの治療の経緯を
『受診状況等証明書』に記載してくれました。
この『受診状況等証明書』は、通常は障害年金の初診日の証明用に使われるものです。
傷病名(Bさんの場合は「抑うつ状態」)、傷病の原因または誘因(職場でのストレス)、
発病から初診までの経過、初診年月日(平成19年7月12日)、終診年月日、初診より終診までの治療内容
および経過の概要等を記入します。
この『受診状況等証明書』によって、Bさんが、厚生年金の被保険者である時に初診日がある病気によって
初診日から5年以内に自殺したことが立派に証明されました。
請求の結果、Aさんは遺族基礎年金(子供についての加給年金あり)と遺族厚生年金とを受給することができました。
≪遺族基礎年金≫
受給資格要件
次の3つの要件がいずれも満たされていること
1、被保険者要件
夫または親が死亡した日に、夫または親が次のいずれかに該当すること
@国民年金の被保険者
A国民年金の被保険者であった者で60歳以上65歳未満の者
B老齢基礎年金の受給権者
C老齢基礎年金の受給資格要件を満たしている者
2、保険料納付要件(上記1、の@及びAに該当する者)
死亡日の前日において次のいずれかの保険料納付要件を満たしていること
@死亡日の属する月の前々月以前の被保険者期間のうち、保険料納付済期間
と保険料免除期間を合算した期間が3分の2以上あること
A死亡日の属する月の前々月以前の直近の1年間に保険料未納期間がないこと
3、遺族の範囲要件
夫または親が死亡した当時、夫または親に生計維持されていた「子のある妻」または
「子」であること
子とは―――
・18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子
・20歳未満で障害等級1級または2級の障害者
年金額
基本額 + 子の数に応じた加算額
基本額 満額の老齢基礎年金額と同額。平成23年度は788,900円。
加算額 2人目までの子供には1人につき227,000円、3人目以降は
1人につき75,600円。
妻が受け取る具体的な年金額
(区分) (基本額) (加算額) (合計額
子が1人の妻 788,900円 227,000円 1,015,900円
子が2人の妻 788,900円 454,000円 1,242,900円
子が3人の妻 788,900円 529,600円 1,318,500円
≪遺族厚生年金≫
受給資格要件
(1)短期要件該当
@被保険者が死亡した時
(注)保険料納付要件(後出)を満たしていることが必要。
Aア.厚生年金保険の被保険者であった者が、
イ.被保険者であった間に初診日のある傷病によって
ウ.被保険者の資格を喪失した後に
エ.初診日から起算して5年以内に
死亡した時
(注)保険料納付要件(後出)を満たしていることが必要。
B1級または2級の障害厚生年金の受給権者が死亡した時
(2)長期要件該当
老齢厚生年金の受給権者、または老齢厚生年金を受けるのに必要な資格期間を
満たしている者が死亡した時
(3)保険料納付要件
上記の受給資格要件のうち、(1)の@,Aに該当する者については、次のいずれ
かの保険料納付要件を満たしていることが必要です。
@死亡日の属する月の前々月以前の被保険者期間のうち、保険料 納付済期間
と保険料免除期間を合算した期間が3分の2以上あること
A初診日の属する月の前々月以前の直近の1年間に保険料未納期間がないこと
遺族の範囲
遺族厚生年金を受給することのできる遺族は、次のように定められています。
被保険者または被保険者であった者の死亡の当時、その死亡した者によって
生計を維持されていた配偶者(妻または夫)、子、父母、孫、および祖父母。
また受給するための順位は次の通りで、先順位の者がいる場合には、後順位の者は遺族厚生年金を受けることはできません。
第1順位(注1) 配偶者・子(注2)
第2順位 父・母(注3)
第3順位 孫(注2)
第4順位 祖父・祖母(注5)
(注1)第1順位者の「配偶者・子」については具体的に次の通りの順位が定められ
ていて、先順位者が年金の支給を受けることができる場合には、後順位者
の年金の支給は停止となります。
第1順位 子のある妻
被保険者または被保険者であった者の死亡の当時、その
死亡した者によって生計を維持されていた子(注2)と生計
を同じくしている妻。年齢は問わない。
第2順位 子(注2)
第3順位 子のない妻
第4順位 夫(注4)
(注2)子・孫については、被保険者または被保険者であった者の死亡の当時、次
のいずれかの要件を満たしていることが必要。
ア.18歳到達年度の末日までの間にあること
イ.20歳未満で障害等級1級または2級に該当する障害状態にある
こと。
(注3.4.5)夫、父母、祖父、祖母については、被保険者または被保険者で
あった者が死亡当時55歳以上であることが必要。支給開始は60歳から。
年金額
原則として老齢厚生年金の額(報酬比例の額)の計算の規定の例により計算した額の4分の3に相当する額が支給されます。
具体的な計算式は次の通り。(妻が受給する場合。物価スライド特例水準の年金額)
{〔平均標準報酬月額(注1)×生年月日に応じた乗率(注2)×平成15年3月までの被保険者期間の月数〕
+
〔平均標準報酬額(注1)×生年月日に応じた乗率(注2)×平成15年4月以降の被保険者期間の月数〕}
×
1.031×0.981×3/4
(注1)平均標準報酬月額、平均標準報酬額、「再評価率」の取り扱いについては老齢
厚生年金額(報酬比例分の額)の算出の場合と同じ。
(注2)「短期要件に該当する遺族厚生年金」の額を計算する場合、死亡した者の被保
険者期間の月数が300月に満たないときは、障害厚生年金の場合と同様300
月に引き上げます。
またこの場合平均標準報酬(月)額に乗じる乗率は年齢にかかわりなく、一律に
平成15年3月までの分 7.5/1000と
平成15年4月以降の分 5.769/1000
を用います。
(注3)「長期要件に該当する遺族厚生年金」を計算する場合、平均標準報酬(月)額に
乗じる乗率は生年月日に応じた乗率です。
平成21年4月2日以降生まれの人の場合は次の乗率を用います。
平成15年3月までの平均標準報酬月額に乗じる率 7.500/1000
平成15年4月以降の平均標準報酬額に乗じる率 5.769/1000